柳亭小痴楽 インタビュー

柳亭小痴楽 インタビュー

UPDATE 2012/01/15 13:09

以前から落語というものに興味はあったが、何となくどこから入っていいのかわからずにいた。昨年10月たまたま友人に誘われ、初めて落語を見ることに!柳亭小痴楽(りゅうてい こちらく)さんの独演会第一回目。「枕」のおかしなエピソードに笑っているうちに、すうっと粋な江戸の風景が見えてくる。話が進むにつれ、登場人物たちの存在がいきいきと浮かび上がりここが現代だということをすっかり忘れ夢中になった。落語ってこんなに笑えるものだったんだな…。
小痴楽さんは23歳という若手ながらこの道に入って7年ほど。現在二つ目。お洒落でひょうひょうとした語り口の魅力的な人だ。何でもオープンに話してくれるサービス精神に感謝しつつ、どこまで記事にしていいのかというスリルもあったりなかったり…。
今回のインタビューでは小痴楽さんご自身のことに加え、落語初心者ならではの質問にもわかりやすく答えてくれました。

柳亭小痴楽さんにインタビュー! @ 新宿三丁目
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「落語家になるには」

INGEL あの、落語家ってどういう風にしてなるんでしょうか。

小痴楽  弟子志願をして、弟子にしていただいてから、師匠によりますが、前座修行を始める前に見習い期間があります。僕は3、4ヶ月だったかな。そのあと入門を許されたら、4年間前座としての修行期間があります。前座修行はその名の通り前座で噺もやるし、太鼓を叩いたり、座布団を返す、師匠の着物をたたむ…いろいろやることがあって、その師匠によって修行内容も違います。365日休みなしで寄席にいますね。まあ半日間ではありますが。人によっては寄席の前、後、師匠のお宅に伺って、身の回りのお世話をしたり。

INGEL 師匠の付き人のような感じでしょうか?

小痴楽 そう。でも寄席では自分の師匠以外の方のこともやります。飲み会でも一人前座が座ってて。飲み物がなくなったら頼む、灰皿交換するなんていうのはもちろん、師匠が鼻をちょっとグズッとやったらティッシュを出す。鼻をかんだらゴミ箱を出す。出すお茶の温度や濃さなんかも師匠によって好みがあるから気をつけたりして。その4年間を経て、師匠がもうニつ目になってもいいんじゃないかとなれば一応、一人前。前座の時は着ながし一枚ですが、ニつ目になったら紋付の羽織袴が履けるようになる。それで、だいたい10年間くらいニつ目としてやっていく。それでやっと真打ちです。真打ちになったら本当に落語家として一人前。

INGEL 落語って協会とか一門みたいなものがありますよね?

小痴楽  上方は別として、東京では大きく言って僕の所属する落語芸術協会と落語協会、協会としては二つあります。円楽一門と立川流は協会じゃなくて宗派みたいな感じで、協会から脱退しています。それぞれ仲が悪いわけではなくて、昔別れるポイントがあっただけだと思いますが。ただ同じ場所は使うけれど、基本的に同じ寄席に出ることはありません。たまに一緒に出る会もありますが。新宿、浅草、池袋とあって10日ずつ落語協会、芸術協会と変わっていくんですよ。うちの協会の会長は桂歌丸師匠で、副会長が三遊亭小遊三師匠。

INGEL 「笑点」に出演されてるお二人ですね!

小痴楽 そう。「笑点」はもともと立川談志師匠が作った番組なんだそうです。
また、たまに4派が集まったりする会もあって、普段滅多に会えない人に会えるのが楽しみです。僕は柳亭一門で主にその師匠から噺を習うんですが、同じ噺でもそれぞれの一門によって違いがあります。同じ噺を聞いても「ああ、この人は柳家から習ったな」とか「三遊亭から習ったな」というのがわかったりする。柳家にしか入っていない「くすぐり」が入っていたり。「くすぐり」はちょっとした笑いのあるところです。たとえば円楽一門の噺を滅多に聞く機会がないので、たまに聞くと「ああ、面白いなあ」と思いますね。立川流だったら「談志師匠、こうやってやってたのかぁ」とかね。

「落語を始めたきっかけと父・柳亭痴楽さん」

INGEL 小痴楽さんのお父さんも落語家ですよね?

小痴楽  はい。小さい頃から毎年親父の独演会に手伝いで行ってましたね。母親がもぎりで、僕と兄は子供だから、ただ一緒にいるだけなんですが。僕は色物、大神楽や漫才のときだけ見に行ってましたね。落語には興味がなかった。ただずっと2ビートさんとかやすきよさんの映像を見ていて、芸人になってああいう漫才がすごくやりたかったのを覚えてます。小さい頃から「とりあえず前に行かなきゃ!」というタイプで、ずーっと騒いでましたね。笑

INGEL 落語をやろうと思ったきっかけは?

小痴楽  中学三年のときにたまたま家にあったCDを聞いたんですよ。春風亭柳枝師匠の「花色木綿」。うっかりした泥棒の出てくる噺です。それが僕には一人コントに聞こえて「面白いなあ!」と思いました。それから親父が古今亭志ん朝師匠のビデオを見せてくれて。生意気ですが、それが、きれいな落語なんですよ。「抜け雀」という噺。絵師がつい立てに雀の絵を書いて、雀がつい立てから飛び立って、また戻ってくる。志ん朝師匠が、雀がチュンチュンチュン…とやったのを見たときに、僕には雀が見えた。「すげー!何だこれは」「落語がやりたい!」と思ったけど、その時は親父が目の前にいるから恥ずかしくて言えなかった。

INGEL 高校生のときに弟子入りしたんですよね。

小痴楽  高校はバスケがやりたいのと友達を作りたいというのだけで、ほとんど遊びに行ってました。勉強するには頭の方が足りないし、留年が決まってしまって「もう 学校やめよう」と思ったときに、突然親父が脳幹部出血で倒れて半身不随になっちゃって。高校は出ておいた方がいいという母親のすすめもあって留年することになったものの、留年生だから部活もダメでバスケができないし、なぜか一つ下の女の子の友達がまったくできないし…。「よし、もう高校でやりたいことねえな。辞めよう」って。ちょうどそのとき親父が意識だけ戻って筆談ができるようになって、父の代わりに僕を育ててくださる師匠、平治師匠にお願いをしてくれたんです。それで、この世界に入れたんです。

INGEL 16歳から初めて、今23歳ですよね。今年7年目ですか…。

小痴楽 そうですね。21歳で二つ目になりました。

INGEL お父さんはその後は?

小痴楽  4、5年くらい家で闘病生活していたんですが2年前に亡くなりました。だから一回も生で親父の落語を見たことがないし、習ったことがないんですよ。母親は僕と親父のことを「何から何まで似ちゃってて、こわい」って言います。笑 怒るポイントなんかも似てるらしい。親父も同じように高校を辞めてこの世界に入ってるし。二人合わせて、高校生活1年半です。笑

INGEL DNAを受け継いでるんですね。印象に残っている言葉はありますか?

小痴楽  「嘘をつかないように」ですね。「おまえは器用じゃないから嘘をつけない。バカだから、ついた嘘を忘れて、すぐボロが出る。笑 だから、あいつはバカだって言われても素直に正直でいろ」ということ。あと実は僕、寝坊が多すぎるとかいろいろ理由があって前の師匠に破門になってるんです。それでも「噺家になる道を残してくれた師匠の(桂)平治に、恩義を絶対忘れるな」という言葉はずっと頭の中にあります。「あと、後輩を大切にしろ。後輩といっても、年は上なんだから、気持ちの中では先輩として尊敬をしなさい。お前みたいな奴を、兄さんと呼んでくれるんだから、それはすごい奴等だ」とも言ってました。父は僕の中で人として最も尊敬する人です。実は携帯の待ち受けも親父なんですよ。顔を忘れないように。笑

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「笑いの研究」

INGEL お休みの日は何をしていますか?

小痴楽  一人でいるのが嫌いなので、一人でいることはほとんどないです。変なとこ真面目な部分があって、一人になると落語のことばっかり考えてしまう時があるんです。すでに持っている噺は復習しないと忘れちゃうし、ここをこうしたらもっと面白いんじゃないかとか考え始めると寝れなくなっちゃう。テレビを見てても「これ使えるかな」とか…。特に 明石家さんまさんとか鶴瓶師匠、尊敬してる人が出ている場合は、喋りを見て聞いてしてると、とても勉強になります。だから、笑うの忘れて感心してたりとか。笑

INGEL 音楽や演劇をやってる人もそうだろうけど、自分が携わっている分野を純粋に楽しめなく部分はあるかも知れませんね。どうやって作ってるんだろう、とか…。

小痴楽  ただ笑って見ているだけでは成長が遅れてしまうような気がするんです。「漫才は面白い!」と全肯定してしまったら、漫才を自分から切り離してしまうことになる。その中で面白いと思った部分を取り入れる作業をしなかった結果、その時気づけたはずのものを何年も後になって気づくことになるのは、時間の無駄になってしまう気がするんです。

INGEL 確かに。まあ「面白いものは面白い。それだけでよくない?」と思う人も多いと思うけどね。

小痴楽  落語家の先輩でも「落語と漫才は別だ」という人もいれば「取り入れなきゃ」という人もいる。漫才は人気があって、テレビでも漫才師がたくさん出ますよね。 人気があるものには必ず理由があるから、それを知りたい。僕はどんどん新しい世代の人が落語を聞きに来るべきだと思うので、今の感覚も大事にしたい。ホント若いうちに色んなとこでお喋りする、落語ってホームグラウンドだけで狭くやるんじゃなくて、色んなアウェイなところでも経験してみたいです。

INGEL 是非ライブハウスでもやって欲しいです!

「しくじり」

INGEL 落語を通して思い出に残るエピソードって何かありますか?

小痴楽  まあやっぱり、しくじり話ですかね!最近の小痴楽伝説は…仕事先で(桂)歌丸師匠と二人でお弁当をもらって、僕はそのとき食べちゃったんですけど、師匠が持って帰るお弁当の箱と間違えて自分の空箱を入れてしまっていた。笑 家に帰ってきた師匠が「今日の晩ご飯…」と思ってお弁当のふたを開けたら、僕の食べられないウニしか入ってなくて…。で、僕のところに電話がかかってきて「お前ウニ嫌いだったね?ウニ一つしか入ってないんだけど、おかしいよね?」って。 次の日、杖でパコーンって。笑

INGEL ほとんど漫画ですね。笑

小痴楽  あとは…。寄席が終わると遊びに行って、というのを5日間くらいほとんど寝ないでくり返した挙げ句、久々に家に帰って寝たんです。それから起きて寄席に行ったんですが、寄席にいる人たちが自分の協会の人たちじゃない…。それで36時間寝ちゃってたことに気づいたんですよ。もう寝坊っていうレベルじゃなくて、無断欠席ということになってるわけですよ。「お前、昨日なんで来なかった!」って師匠に言われて「いや寝て起きたら36時間経ってて…」って僕もパニックになっちゃって。「僕もわかんないです。嘘じゃないです。寝ちゃいました…」って言ったら師匠も「寝ちゃったのか…」って。もう怒るというより、人間がそんなに寝れることに驚いてた。笑

INGEL そのことで何か制裁を受けたりしなかったの?

小痴楽  ありましたよ。前座は昼か夜の半日しか寄席にいないんですが、人数が足りないときは昼と夜両方とも寄席に入る時があるんですよね。滅多にないことなんですが。その件の罰として4ヶ月連続で昼夜…。だから誰よりも寄席に出た男。笑 僕、落語の登場人物「与太郎」なんですよ。本物のバカ…。

INGEL 落語を地でいってる、と。笑

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「第一回 独演会について」

INGEL 去年の小痴楽さんの第一回目の独演会、本当に面白かったです。お酒を飲む様子があまりに美味しそうなんで、会場を出たあと思わず日本酒を飲みに行きました。最後にやった若旦那のお風呂屋さんの噺「湯屋番」は笑いすぎて階段から転げ落ちるかと思いました。

小痴楽  実は「湯屋番」って寄席ではあんなにオーバーにやらないんですよ。大体寄席にやってくるお客さんは年配の方が多いし、江戸落語の粋な若旦那を見たい人たちもいるからお客さんによってやり方は変えます。

INGEL なるほど…。これから独演会は一年に一回やっていくんですか?

小痴楽 そのつもりですが、歌丸師匠は一年に二回やれと。でも一日に三席はけっこう辛いんですよ。長いし。

INGEL 確かに覚えるの大変そうですよね。ところで前ふりの「枕」という部分はアドリブなんですか?

小痴楽  アドリブの場合もあります。僕は一つの噺に一つ枕を作るようにしてるんですが、その場でフッと面白いことを思いついたらそれを入れてしまって話が脱線したり、いい加減なものですが。古典落語の最中にもそれを入れちゃって、そのつっこみを入れなきゃならなくなったり。僕の高座を昔から見てくださってる方が、「同じ噺をまったく同じにやってくれないのが面白い」と言ってくれます。笑 実は独演会のときも一番最初から間違えました。同じような入りの噺がいくつかあるんですよ。話していくうちに違う噺のほうに行っちゃって「あ、このまま行ったらあっちの噺になっちゃうな、でもあれ全然面白くないからなあ…」って。だから「そんな話どうでもいいからどーのこーの」とか言って止めて。笑 仲間内や常連の方なんかは見てて「あーあーあー…」「出た、独演会の第一声からコレだ…」って。笑

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「これからのこと」

INGEL どんな落語家になりたいですか?

小痴楽  聞かせる古典落語をやる方もいれば新作をやる方もいるなかで、僕はいい意味で宙ぶらりんが良いです。古典も好きだし、出来たら新作もやっていきたいし、古典をイジって自分らしさを出したいんで、ちょっといい加減なキャラクター作りをしたり。「いい加減なの」というのはたとえば、独演会でもやった「湯屋番」とかですね。古典落語を崩してやっています。かなりオーバーにやって、オチも自分で 作って。古典と新作があるなかで、僕は10円玉でいうギザ10の位置にいたいんですよ。裏と表ではなくてあのギザギザのところ。珍しいよ!って。笑 僕は僕のやり方で、どちらもいい感じにやらせてもらえればと思ってます。あと何年かは自分のやりたいようにやりたいですね。前座のときから僕を見てくれている人が、以前は「前座なのにすごく上手いな」って思ってくれていたらしいんですよ。でも最近言われたのは「すごく面白くなってるけど、落語は下手になってるね」って。その人は嫌みで言ったのかもしれないけど、僕はすごく嬉しかった。僕は落語が上手くなりたいんじゃなくて、面白くなりたいから。

INGEL 自分のやりたいことが伝わっている証拠かもしれませんね!

小痴楽  同級生が落語を見に来てくれるようになったんですよ。僕の落語を聞いて、いろんな人の落語を聞くようになった友達もいる。若い世代の人たちがたくさん古典や新作にふれて「落語って面白い!」と思ってくれたらいいな。若手である自分はそのきっかけをつくる玄関のような役割になれたらと思います。

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小痴楽さん、どうもありがとうございました!

皆さんも是非寄席に行ってみてはいかがでしょうか?(文章/写真:INGEL)

柳亭小痴楽さんの出演情報: http://www.geikyo.com/profile/profile_detail.php?id=20

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