「沈黙しない春」杉岡太樹 監督インタビュー

  INTERVIEW                           2012.5.11

 杉岡 太樹   映画「沈黙しない春」監督

言わずと知れたレイチェル・カーソンの「沈黙の春」ならぬ、「沈黙しない春」。

2011年3月の福島の原発事故から浜岡原発停止までの44日間にわたり各地で起こった脱原発デモとそれに携わる人々、被災者の家族を追ったドキュメンタリー映画が渋谷 UPLINK Xで公開中だ。

公開前の5月9日「沈黙しない上映会」に参加してきた。twitterで各々のアカウントからハッシュタグを付けて感想をつぶやきながら映画を鑑賞しようという、映画のタイトルとリンクさせたイベント。

事 故後、いち早く行動を起こし声をあげられずにはいられなかった「沈黙しない」人々の姿を観ながら一緒にデモに参加しているような感覚になった。上映後は映 画に出演しているミュージシャンの三宅洋平氏のライブもあり、彼の「すべてのスタンスを尊重した上で、どうひとつになるか」という言葉はこの映画の投げか けに対する一つの頼もしい答えのように思えた。

作品の監督、撮影、編集を手がけた杉岡太樹にインタビューを申し出ると「何でも聞いて」とニヤリと笑って質問に答えてくれた。

 

杉岡太樹監督

「沈黙しない春」

INGEL この映画を撮ろうと思ったきっかけを教えてください。

杉岡  まず、3.11の震災で原発事故が起きる数年前、鎌仲ひとみ監督の「六ヶ所村ラプソディー」という映画を観たことが大きい。原発に対する問題意識はあった んだけど、何か直接的な行動をしていた訳ではなかった。実際に事故が起きたとき、ずっと考えていただけで、それまで何もしていなかった自分を思って後悔し た。何かしないではいられないと思ってたときに、たまたまtwitterである女子高生がデモをやるという情報を得て。「これを撮らなきゃ」って直感がき て、とにかくカメラを持って駆けつけた。最初は映画を撮ろうなんて思ってなくて、撮った動画をyoutubeにあげて、デモを応援するような形になればい いなと思ってた。だけどいざ行って撮影を始めると「あれ?」と思うことの連続だった。女子高生に群がる大人たちとか。これは「デモを応援」以上のものが 撮れるんじゃないかと思った。

INGEL 「あれ?」というのは違和感のようなものを感じたということ?

杉岡  そのとき少なからずメディアなり、フリーのジャーナリストたちが来ていたんだけど、見ているところが俺とは違うと思ったし、自分が少数派だというのを突き つけられた。どちらが優れているという訳ではないけど、自分は見たくないものも見ていると思う。現実の複雑さや矛盾、その何ともし難いところとか。複雑さ を複雑なまま見ようとしているということかな。簡略化したくない。

INGEL 見たくないものにも意識的にカメラを向けているの?

杉岡  「意識して」というより、俺自身が普段からそうやって物事を見てるということかな。今回の映画に関しては全部自分でやってるから特にそう。自分の視点をできるだけそのまま映像化したい。

 

「沈黙しない春」トレイラー

 
「出会い」

INGEL 映画に出てくる人々は撮影する中で偶然出会った人たち?

杉岡  そうだね。避難して来た野村さんもそうだし、ヒッピー風の陽太君も、撮影していたイベントにたまたま来ていたんだけど、もう彼の顔見た瞬間に「目が違う」 と思った。ああいう状況(3.11 直後)の中で、俺の目から見て「本気」の人間を撮りたかった。いろんな意味でね。逃げる、闘う、牛を愛する、でも何でもいいんだけど。その人たちとの出会 いを偶然と呼ぶなら偶然だし、もちろん自分で選んだというのもある。

INGEL ではミュージシャンの三宅洋平さんとRUMIさんは?

杉岡  あの二人はもともとファンだったんだよね。RUMIさんはアルバムも全部持ってたくらい好きで。twitterを見ていて、かなり早い段階で東北に届ける ための救援物資を集めているのを知ってすごいと思った。4/10の高円寺のデモでライブやるのを知ってそれを撮らせてもらえないかって会いに行って。洋平 君の場合は広島のデモに彼がいることも何も知らなかったね。行ったら「うわ、三宅洋平がライブしてる」と思って。その後デモの最中に話したんだ。

INGEL すごい出会いだね。

杉岡  そう。三宅洋平君やRUMIさんを撮りたいが為にこの映画を作った訳じゃないんだけど、自分が信じた道を進んでいたら撮りたかった人、一緒に何かしたかっ た人たちと巡り合えるんだと思った。これが一作目だけど、このまま進んで行けばまたそういう人たちに会える予感がする。でも変な話、彼らと出会えることは 当たり前なんだよね。自分がかっこいいと思ってる人の影響を受けて自分の考え方が醸成されていくものだとしたら、その先にその人たちがいるのは当然だと思 う。そういう点と点を結ぶ線を作っていくためにも常にアンテナを張っておくことは大事だよね。

三宅洋平氏 「沈黙しない上映会」にて
「ハプニング」

INGEL あの、撮影中にハプニングとかありませんでしたか。

杉岡  一番最初に行った浜岡原発反対のデモの日に、撮影中こけて鼻を打ったこと。撮影中けっこう冷静な自分を保つのには自信持ってるんだけど、あの時はテンショ ンが上がっちゃって走り回っていたしね。側道で何かを撮ってて、振り返って「さあ!」とダッシュしようとしたらチェーンが足にひっかかって顔面からドー ン!マスクしてたんだけど、血だらけになった。カメラも壊れたと思ったし。

INGEL ひー、すごい幕開けだったね。

杉岡  他は…特にないかな。警察とのいざこざもなかったし。脱原発に反対の人たちに遭遇してちょっと囲まれたりはしたけど、かと言ってそれで殴られたわけではな いし。撮影することに対して断りを入れてるわけではないからね。まあ彼らが驚くのは当然のことだし準備もできてるわけで。野村さんが車で事故に遭った次の 日に彼の車に乗らせてもらって撮影しているときは一番スリリングだったけどね。彼は気が立っていたし、こんな精神状態の人の運転する車に乗ってていいのか なと思って命の危険すら感じたよ。一瞬「死ぬときってこういうときなんじゃないか」と思った。映画の中でその臨場感をあえて押し出すことはしてないんだけ ど。だからそう、ハプニングなんて最初に言ったのだけだ。俺のチャームポイントの鼻が、折れ曲がるところだったよ!

INGEL 本当に危なかったね。トークイベントでは鼻に注目…。ところで監督や撮影などすべて自分一人で手がけるのは大変じゃない?

杉岡  まあ、人にやらせるとうるさいタイプなんで。笑 このスタイルをずっと続けるかわからないけどね。配給もやって、上映後のトークも全部出るんだ。逃げも隠 れもしない。音楽なんかは全部一人で手がけることもよくあると思うけど、映画でももっとそういうスタイルが出てくれば面白いのに。どんどん好きなことがで きる時代だよ。 特に女性は女性の視点でもっと映画を作ればいいと思ってる。今はカメラも小さいしね。

 

NYの地下鉄ミュージシャンを捉えた映像

 

「音と人間」

INGEL ところで、以前監督がNYの地下鉄構内で演奏するミュージシャンたちを撮った映像がyoutubeで公開されてますね。あの映像や今回の映画など、手がけた作品に共通するこだわりのようなものはある?

杉岡  作風とかスタイルのこと?ないことはないよ。あれは4、5年前NYの学校に行ってるときに撮ったんだ。俺の原点だね。あれで自信を得た部分が大いにある。 あれはいろいろ面倒くさくて映画祭には出さなかったんだけど…。それこそyoutubeにあげたら多くの人に見てもらえて、再生回数もかなりの数に達し た。あれを名刺代わりに、いろいろなものをゲットできた。…あ、ニーソだ…(ここでニーハイソックスの女性に反応を示す監督)

INGEL …見せ方がスタイリッシュだよね。

杉岡  それは心がけてる。あと「音と人間」というのはずっとテーマにしてる。それしかできないとも言えるけど。例えば理論で固める人もいれば、感情に訴える人も いる。ドキュメンタリーというものを作る上でいろいろな表現方法と視点があるけど、俺は「音と人間」というテーマで社会を映し出したいと思ってる。地下鉄 ミュージシャンの作品では、あの映像とあの音によってNYという街を表現したかった。今回の映画も「原発デモ」というテーマで撮ってはいるんだけど、その 中で 「人間」「日本人」を撮りたかった。だから、地下鉄ミュージシャンの作品も今回の映画もやってること自体はあまり変わってないんだ。撮りたいのは人間がど ういう風に「音」と共鳴したり影響を受けたりするか。そしてどういう「音」を出して何を生み出していくか。興味があるのはそこだね。

INGEL 「音」って音楽だけじゃないんだよね。

杉岡  そう、いわゆる音楽だけじゃない。牛が草を食べるのだって、音であり、音楽だと思う。俺のルーツは音楽。もともと映画より音楽が好きだったからさ。DJを やったりね。映画を作るのはDJの感覚に近いものがある。ずっとこういうやり方を続けるかどうかはわからないけど、自分が撮ることができた映像を使って、 何を表現できるかということをいつも考えている。「ブリコラージュ」っていうんだけどさ。

INGEL 何、「ブリコラージュ」って…

杉岡 要は手持ちのものを使って何を作れるかって話。これは本当に編集してるときも呪文のように唱えてた言葉。俺が説明するより読んでもらったほうがいい。あとはググれカス!

 

※ブリコラージュ(Bricolage)は、「寄せ集めて自分で作る」「ものを自分で修繕する」こと。「器用仕事」とも訳される。元来はフランス語で、「繕う」「ごまかす」を意味するフランス語の動詞 “bricoler” に由来する。ブリコラージュは、理論や設計図に基づいて物を作る「エンジニアリング」とは対照的なもので、その場で手に入るものを寄せ集め、それらを部品として何が作れるか試行錯誤しながら、最終的に新しい物を作ることである。(Wikipediaより) more>>


「かっこよさ」

INGEL みんなに観てもらうことで社会に影響を及ぼしたい?

杉岡  そりゃもちろん。自分が声を出しているんだから聞いて欲しいよ。この映画で「原発反対」だけをメッセージにしているつもりはないけど、この映画を見た人が 原発について自分の頭で考えてくれたらいいなと思ってる。俺が言ったから、三宅洋平が歌ってたから、というのじゃなくてね。ここで見たものが自分の生活に 繋がってるのかもしれない、と。映画に出てくれた人たちは俺がこういうこと言うのはあまり同意できないかも知れないけど、俺自身としてはこの映画を観てく れた人が、原発に賛成だろうが反対だろうがどちらでも構わない。とにかく、それについて考えて欲しいんだ。そして今「何がかっこいいか」ってこともね。社 会問題について論じる人間が固かったり、あまりにオタクっぽい感じでは社会は変わらないと思う。「あいつらかっこいいな、俺もなりてえ」って思わせたい。 政治も経済も文化も…そう、かっこよくやろうぜって話。

INGEL でも人によって「かっこよさ」って違うじゃない。

杉岡  他人のかっこよさの尺度はいろいろあるけど、それぞれが自分のかっこいいと思う形でそのまま出て行こうぜってこと。「こういう問題って勉強してないと関 わっちゃいけないのかな」とか「俺みたいなバカで無防備なやつが出て行ったらボコボコにされて終わりだわ」なんて難しく考えなくたって、好きなことを言え ばいい。もっとシンプルに自分のスタイルでしたいことをすればいい。

INGEL なるほどね。今、こういう原発問題についての映画を撮ることはやっぱり自分の役割だと思う?

杉岡  そうだね。反原発の人々を「映画」にしてる以上、彼らには届けられないところまでより広く届けることが、撮ってる人間の役割だと思うよ。俺は俺にしかでき ないやり方で。ちょっと角度を変えて、メッセージとして強い部分だけを見せるんじゃなくてね。この映画はきっと誰でも共感できる部分があるはず。俺だって 四六時中エネルギー問題について考えてる人間じゃない。みんなと同じで便利好きだしラクしたい。でも、ちゃんと考えたら「便利さ」だって変わるはずじゃな い? 考え方次第だよ。

INGEL うん、それぞれが考えてそれぞれのやり方で行動を起こしたら変わると思うよ。「沈黙しない春」は福島の原発事故が起きて浜岡原発停止までの44日間を追っているよね。つい先日、5月5日に日本の原発がすべて一旦停止したけど、それについてどう思う?

杉岡  昨日三宅洋平君も言っていたけど、当時みんな浜岡原発ですら止まると思ってなかった。あれ一個止まっただけでも奇跡だって思ったよ。今原発が全部止まった のは一つの重要なターニングポイントだと思う。同時に俺にとって今は「沈黙しない春」の出発地点。ここから何をしていくかが大事だよ。原発が停止したこの タイミングでこの映画が発表できるということを自分がどう活かしていくのか、何に変えてくのかというのはちゃんと考えていかないといけない。

INGEL これからも楽しみにしてます。ありがとうございました。

杉岡 ヤーマン。

 

(文章:INGEL 写真:RINO)

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杉岡太樹 / TAIKI SUGIOKA

1980年神奈川県生まれ。01年より渡米、School of Visual Arts(ニューヨーク)にて映画製作を学ぶ。第84回アカデミー賞ノミネート作品の『もしもぼくらが木を失ったら』や、日米で異例のヒットとなった『ハーブ&ドロシー』などの制作・配給に参加。NYの地下鉄ミュージシャンを捉えた映像作品は Youtubeで150万回以上の再生数を誇る。撮影から編集まで全て一人で手がけた『沈黙しない春』は、初の長編作品。撮影を務めた『Art is…THE PERMANENT REVOLUTION 』(12年3月より全米劇場公開)、佐々木芽生監督の新作(タイトル未定)の公開が控え、制作中の次回作『(仮) #ミンちゃん THE MOVIE』が早くも話題になっている。

→ TAIKI SUGIOKA BLOG

 

information

 

   「デモ」ってなに?!「脱原発」ってカッコイイの?! 

 

日本各地を駆け巡った”脱原発デモ”。はじまりは、ひとりの女子高生の思いつきからだった…。準備はたったの1週間、呼びかけはブログとツイッ ター。2011年3月27日、東日本大震災以降初の”脱原発デモ”は約300人を名古屋の路上に集め、その後に全国で巻き起こる原発反対運動の口火を切っ た。

 

福島から妻子を連れて避難を続ける元教師、上関原発建設に断固反対する21世紀ヒッピー、それぞれの音を奏でる路上のミュージシャン。次々と現れる ちょっぴり”ヘン”なキャラクターたち。名古屋から、東京、大阪、広島へと。各地のデモを通し­て見えてくる、「日常」を生きる若者の本音や葛藤・・・。

 

あの熱気に満ちた”脱原発デモ”とは何なのか。若者たちは何を守るために訴えているのか。彼らはどこから来てどこへ向かうのか。”脱原発”の裏側を 舞台に、若き逆輸入監督がこれからの生き方、在り方を問いかける。福島第一原発事故から浜岡原­発停止まで、ただちに声を上げることを選んだ者たちの交差 する44日間を紡いだ、NONSTOP群像ドキュメンタリー映画が誕生した!

 

 

『沈黙しない春』(125分/HDV/カラー/日本/2011年)     監督・撮影・録音・編集 TAIKI SUGIOKA

場所:渋谷 UPLINK X

日時:上映中~5/25(金) 連日20:20 料金:当日一般¥1,500/学生¥1,300(平日学割¥1,000)/シニア¥1,000/UPLINK会員¥1,000


公開中トークイベント開催!
17 日(木)~飯舘から引き取られた牛「福ちゃん・島ちゃん」の唄
ゲスト:岩崎けんいち(シンガーソングライター)

http://chinmokushinai.com

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